暴落時の心構え — 投資を続けるための7つの原則
長期インデックス投資をしていると、いずれは経験する可能性が高いのが 株式市場の大きな下落(暴落) です。
この記事で想定しているのは、全世界株式の指数に連動する投資信託(いわゆる「オルカン」)や、S&P500指数に連動する投資信託のように、広く分散された株式インデックスに長期・積立で投資するケースです。個別株、テーマ型投信、レバレッジ型商品、暗号資産、短期売買などでは、値動きの性質やリスクが大きく異なるため、本記事の考え方がそのまま当てはまるとは限りません。
なお、インデックスファンドを含む投資信託には価格変動があり、投資した元本を下回ることがあります。海外資産を含む商品では、為替の動きも基準価額に影響します。
2008年のリーマンショックでは、米国の代表的な株価指数であるS&P500が約57%下落し、暴落前の高値を回復するまでに約5年半を要したとされています。2020年のコロナショックでは、数週間で30%超の下落となった一方、各国の金融・財政対応などを背景に比較的短期間で高値圏まで戻りました。これらの大きな下落は決して例外的な出来事ではなく、長期投資をしていれば投資期間中に起こり得るイベントと考えておくのが現実的です。
大切なのは、暴落が起きること自体ではなく、暴落が起きたときに自分がどう行動するか です。この記事では、広く分散された長期インデックス投資を続けるための心構えを、7つの原則として整理します。
暴落の歴史を知っておく
過去に起きた主な株式市場の下落例を、簡単に振り返ります。あくまで 過去の参考データ であり、下落幅・回復期間ともに、調査機関・参照指数・通貨・期間の取り方によって数値は変わります。以下は米ドル建て・配当を含まない価格指数のおおよその水準で、実際に保有するファンドの基準価額は、為替やコストの影響を受けるため同じにはなりません。
| 時期 | 名前 | 米国株(S&P500価格指数)のおおよその下落幅 | 回復までの目安 |
|---|---|---|---|
| 2000〜2002年 | ITバブル崩壊 | 約-49% | 名目で高値を回復するまで約7年(2007年) |
| 2007〜2009年 | リーマンショック(世界金融危機) | 約-57% | 名目で高値を回復するまで約5年半(2013年) |
| 2020年 | コロナショック | 約-34% | 約半年で高値を回復(2020年) |
| 2022年 | 金融引き締め局面 | 約-25% | 約2年で高値を回復(2024年初) |
これらの下落後、米国株式市場は名目ベースで高値を更新してきましたが、回復までにかかった期間は、コロナショックの約半年から、ITバブル崩壊の約7年まで、ケースによって大きく異なります。短期的には数年単位の含み損が続いたケースもあり、コロナショックのように短期間で戻った事例は、むしろ例外的とみる立場もあります。
重要なのは、過去の回復パターンが将来も同じように再現される保証はないという点です。次の暴落の規模・回復までの期間は、前回までと異なる可能性があります。「暴落は起こり得るもの」「回復には時間がかかることもある」「次の回復が前回と同じ早さとは限らない」という前提を持っておくと、いざ大きな下落が来たときに冷静に対応しやすくなります。
原則1:慌てて売らない
暴落時に避けたいのは、感情的に売却してしまう「狼狽売り(パニック売り)」 です。
暴落の最中は、毎日のニュースで「今日も大幅下落」「これからさらに下がる」といった報道が続きます。これに耐えきれず、「いま売れば被害を最小化できるかも」と思って売却すると、その後の回復局面に乗れなくなる可能性があります。
過去の市場データを見ると、大きな下落の直後に、大きな上昇日が含まれている ことがあります。下落の最中に売却してしまうと、そうした上昇日を取り逃すリスクがあります。
長期インデックス投資を始めたときの前提は、「短期的には下がることもあるが、長期では世界経済や企業活動の成長を取り込むことを期待する」というものだったはずです。下落の最中こそ、自分がインデックス投資を選んだ理由を思い出すと、保有を続けやすくなります。
原則2:定期積立を続ける(ドルコスト平均法の考え方)
つみたて投資をしている人にとって、暴落は 同じ金額でより多くの口数を買える局面 でもあります。これがいわゆる「ドルコスト平均法」の効果が出やすい場面です。
たとえば、月10万円積み立てていて、ファンドの基準価額が下落前から30%下落したとします。下落前と同じ金額でも、購入できる口数はおおむね約1.4倍に増える計算になります(30%下落=価格が0.7倍 → 口数は1/0.7≒1.43倍)。同じ金額でもより多く保有できるため、将来回復したときに評価額の伸びが期待しやすくなります。
ただし、ドルコスト平均法は損失を防ぐ仕組みではありません。価格が下がり続ければ、購入し続けた分も含めて含み損が拡大することもあります。大切なのは、将来の回復を前提にするのではなく、短期的な評価額ではなく当初の方針(投資の目的・使う時期・受け入れられる下落幅)に照らして判断することです。
原則3:ニュースに距離を置き、信頼できる情報源を選ぶ
暴落の最中は、毎日株価の動きを確認したくなります。しかし、毎日のチャートや煽り気味のニュースを追うと、感情が揺れて行動が乱れる 原因になります。
長期投資では、毎日の値動きは長期的なリターンに対してノイズになります。頻繁に資産額をチェックするほど一喜一憂してしまい、「保有し続ける力(保有力)」が削られていく ことのほうが問題になりがちです。週1回、月1回など、自分が冷静でいられる確認頻度に抑える方法もありますし、暴落の最中はあえて まったく見ない という選択もあります。ニュースアプリのプッシュ通知を切る、SNSで投資情報を見ないようにする、証券会社にログインしない、といった工夫も役立ちます。
情報を確認する場合は、煽りタイトルのニュースサイトやSNSだけでなく、公的機関や運用会社などの一次情報を優先する方法があります。例えば、日本銀行・金融庁・各国中央銀行の公式発表、各種統計データ、運用会社の月次レポートなどです。事実ベースの情報を最小限確認するだけでも、パニックに陥るリスクを下げられる場合があります。
そもそも、短期的な相場の先行きには不確実性があり、前提の置き方によって見方は分かれ、予測どおりにならないこともあります。ニュースやSNSの断片的な情報に惑わされず、自分の方針を基準に行動することが重要です。
原則4:生活防衛資金(現金クッション)を確認する
暴落時に慌てずにいられるかは、生活防衛資金(現金クッション)が確保できているか に大きく左右されます。
本記事では、生活費の1年分程度の現金を、すぐに引き出せる普通預金で別途保有しておくことを目安としています。必要額は、収入の安定性、家族構成、固定費、近い将来の支出予定などによって変わります。
逆に、生活防衛資金がない状態で投資をしていると、突発的な現金需要が発生したときに、下落したところで売却せざるを得なくなり、損失を確定してしまいます。これは 長期投資で避けたいシナリオのひとつ です。
リタイア後やFIRE後の場合は、さらに数年分の生活費を現金または短期国債・個人向け国債などに置いておくと、暴落時に投資資産を取り崩さずに済む期間を確保しやすくなります。「現金は機会損失」と感じる人もいますが、暴落時のパニック売りを防ぐための保険料と考えると、一定額を持っておく価値があります。
原則5:余力があれば追加投資を検討する
暴落時に余裕資金がある場合、追加投資(スポット買い) を検討する人もいます。ただし、以下の条件をすべて満たす場合に限定するのが現実的です。
- 生活防衛資金は十分に確保されている
- 近い将来に使う予定のないお金である
- 下落がさらに続いても狼狽しない範囲の金額である
- 追加投資が、自分のリスク許容度の範囲内に収まっている
「底を読もうとしない」のが大切です。底値を当てるのは事実上難しいため、何回かに分けて少しずつ買う方法もあります。一括で投入した直後にさらに下落することも当然あり得るため、「下がってからもう一段下がっても続けられる金額」 に抑えることがポイントです。
追加投資は、すべての人に必要な行動ではありません。基本的には、積み立てを続けるだけで十分です。
原則6:投資ルールを事前に文書化しておく
暴落の最中は、人は誰でも冷静さを失いやすくなります。だからこそ、平常時のうちに、自分の投資ルールを紙やメモアプリに文書化しておく のが有効です。
文書化しておくと良い項目の例は次の通りです。
- 投資の目的(老後資金 / 教育資金 / FIRE 等)と、想定する投資期間
- 毎月の積立額と、ボーナス時のスポット買いルール
- 株式と現金・債券の比率の目安
- 暴落時にやらないこと(例:方針なく売らない、毎日チャートを見ない、SNSの投資情報を見ない)
- 暴落時にやること(例:自動積立の継続、追加投資の検討)
- 方針を見直すタイミング(年1回 / ライフイベント時)と、見直しのきっかけにしない事象(市況の急変だけを理由に方針変更しない、など)
暴落時にゼロから判断しようとすると、感情に引きずられやすくなります。「平常時の自分が、暴落時の自分に渡した手紙」 として、シンプルなルールを書き残しておくことが、続けるための仕組みになります。
原則7:シーケンスリスクを理解する(取り崩し開始直後の暴落)
もうひとつ意識しておきたいのが、シーケンスリスク(リターンの順序リスク) です。これは、同じ平均リターンで運用しても、取り崩しを始めた直後に大きな下落が来るか、後半に来るかで、資産の持ち期間が大きく変わる という考え方です。
積立期(資産を積み上げている時期)の暴落は、安く買えるチャンスにもなり得ます。一方、取り崩し期(リタイア後など)の暴落は、安い価格で取り崩しを続けることになり、資産が想定より早く減ってしまう可能性 があります。
シーケンスリスクへの代表的な対策としては、次のようなものがあります。
- 取り崩し開始の数年前から、現金や債券など、株式と値動きの特性が異なる資産の比率を高めておく(債券にも価格変動などのリスクはあります)
- 取り崩しの初期数年分の生活費は、現金・個人向け国債などで別枠で確保しておく
- 暴落局面では、取り崩し率を一時的に下げる柔軟ルールを事前に決めておく
- 4%ルールなどの目安はあくまで参考とし、実際の市況に応じて見直す前提を持つ(4%ルールは株式と債券を組み合わせたポートフォリオを前提とする研究に由来する目安で、株式100%を前提としたものではありません)
これらは将来の運用成果を保証する手法ではありません。あくまで、取り崩し開始直後の暴落で資産寿命が想定より大きく縮む可能性を、事前に意識しておく ためのものです。
「暴落は起こり得るもの」と理解する
米国株式市場など一部の主要株式市場は、過去には長期で名目ベースの高値を更新してきましたが、その過程で 大きな下落は何度も起きてきた 歴史があります。
「投資を始めて数年で大きな下落を経験する」のは珍しいことではなく、長期投資を続けるなら「いつかは経験する」前提で備えておくのが現実的です。
「暴落は起こり得るもの」「回復にも時間がかかることがある」「短期的には資産が大きく減ることもある」という前提を最初から持っておくと、いざ暴落が来たときに大きな衝撃を受けにくくなります。
長期投資の本質
長期投資は、市場の短期的な変動に振り回されず、長期的な経済成長を取り込むことを期待して、投資を続けるという考え方に立っています。ただし、それが実現する保証はありません。
ただし、本記事が長期保有の候補として想定しているのは、広く分散され、コストや商品性を確認したインデックスファンドです。それが自分の投資目的・期間・資産配分に合うかは、別に確認する必要があります。個別株やテーマ型ファンドは投資先が偏りやすく、値動きの幅も大きくなりやすいため、同じ考え方をそのまま当てはめられません。
まとめ
長期投資は、世界の経済成長を信じる投資です。暴落が起こっても、保有し、積立を続けることが大切です。そのためにも、長期保有に適した、低コストのインデックスファンドを積み立てるようにしましょう。
過去の市場データはあくまで参考であり、将来の運用成果を保証するものではありません。投資判断はリスク許容度と生活設計を踏まえて、ご自身でご判断ください。
よくある質問
- Q1. 暴落時、つみたて投資は止めるべきですか?続けるべきですか?
- 生活防衛資金が確保されていて、収入状況にも投資の目的・使う時期にも変化がなければ、相場が下がったことだけを理由に自動積立を止めない、というのがひとつの考え方です。同じ金額でより多くの口数を買えるため、ドルコスト平均法の効果が出やすい局面です。一方、家計に不安がある、収入が大きく減った、受け入れられる下落幅を超える評価損が続いている場合は、積立額の減額や一時停止も選択肢です。家計・投資目的・運用期間・資産配分・商品の性質が変わったときは、売却やリバランスも含めて方針を確認し直します。判断は将来の回復を前提にせず、当初の方針に照らして行います。
- Q2. リーマンショックではどのくらい下落して、回復までどのくらいかかりましたか?
- 2008年のリーマンショックでは、米国の代表的な株価指数である S&P500 が約57%下落し、暴落前の高値を回復するまでに約5年半を要したとされています。具体的には、2007年10月の高値から2009年3月の安値まで暴落が続き、その後2013年3月に暴落前の高値を回復しました。長期インデックス投資をしていれば投資期間中に起こり得るイベントで、「回復には時間がかかることもある」「次の回復が前回と同じ早さとは限らない」という前提を持っておくのが現実的です。
- Q3. 「狼狽売り」を避けるための具体的な工夫はありますか?
- 事前の方針なく感情的に売却する「狼狽売り」を避けるには、次のような工夫が有効です。(1) 平常時に投資ルールを紙やメモアプリに文書化しておく(暴落時にやらないこと・やることを明文化)、(2) 暴落の最中はあえて毎日チャートを見ない、ニュースアプリのプッシュ通知を切る、SNSで投資情報を見ない、証券会社にログインしない、(3) 大きな下落の直後に大きな上昇日が含まれていることがあり、売却してしまうと上昇日を取り逃すリスクがあると理解しておく、(4) 「短期的には下がることもあるが、長期では世界経済や企業活動の成長を取り込むことを期待する」という、自分がインデックス投資を選んだ最初の理由を思い出す。
- Q4. 暴落時にスポット買い(追加投資)はすべきですか?
- 余裕資金がある場合は検討の余地がありますが、次の条件をすべて満たす場合に限定するのが現実的です。(1) 生活防衛資金は十分に確保されている、(2) 近い将来に使う予定のないお金である、(3) 下落がさらに続いても狼狽しない範囲の金額である、(4) 追加投資が自分のリスク許容度の範囲内に収まっている。底値を当てるのは難しいため、何回かに分けて少しずつ買う方法もあります。一括で投入した直後にさらに下落することもあるため、「下がってからもう一段下がっても続けられる金額」に抑えるのがポイントです。追加投資はすべての人に必要な行動ではなく、基本的には積み立てを続けるだけで十分です。
- Q5. 「シーケンスリスク」とは何ですか?
- シーケンスリスク(リターンの順序リスク)とは、同じ平均リターンで運用しても、取り崩しを始めた直後に大きな下落が来るか、後半に来るかで、資産の持ち期間が大きく変わるという考え方です。積立期の暴落は安く買えるチャンスにもなり得ますが、取り崩し期(リタイア後など)の暴落は、安い価格で取り崩しを続けることになり資産が想定より早く減ってしまう可能性があります。対策としては、取り崩し開始の数年前から現金や債券など株式と値動きの特性が異なる資産の比率を高めておく(債券にも価格変動などのリスクはあります)、取り崩しの初期数年分の生活費は現金・個人向け国債などで別枠で確保する、暴落局面では取り崩し率を一時的に下げる柔軟ルールを事前に決めておく、などがあります。
- Q6. 生活防衛資金はどのくらい必要ですか?
- 本記事では、生活費の1年分程度の現金を、すぐに引き出せる普通預金で別途保有しておくことを目安としています(必要額は収入の安定性・家族構成・固定費・近い将来の支出予定によって変わります)。失業や病気・家族イベントが暴落と重なっても、投資資産を売らずに当面の生活を続けられるようにするための備えです。生活防衛資金がない状態で投資をしていると、突発的な現金需要が発生したときに含み損を抱えたまま売却せざるを得なくなり、長期投資で避けたいシナリオになります。リタイア後やFIRE後はさらに数年分の生活費を現金や短期国債・個人向け国債に置いておくと、暴落時に投資資産を取り崩さずに済む期間を確保しやすくなります。
- Q7. 投資ルールはどんな内容を文書化しておけばよいですか?
- 次のような項目をメモアプリや紙に書き残しておくと、暴落時に判断しやすくなります。(1) 投資の目的(老後資金/教育資金/FIRE など)と想定する投資期間、(2) 毎月の積立額とボーナス時のスポット買いルール、(3) 株式と現金・債券の比率の目安、(4) 暴落時にやらないこと(方針なく売らない、毎日チャートを見ない、SNSの投資情報を見ない)、(5) 暴落時にやること(自動積立の継続、追加投資の検討)、(6) 方針を見直すタイミング(年1回/ライフイベント時)と、見直しのきっかけにしない事象(市況の急変だけを理由に方針変更しない)。
※ 過去の市場動向は将来の運用成果を保証するものではありません。本記事は特定の金融商品・金融機関・投資手法を推奨するものではありません。投資判断はリスク許容度と生活設計を踏まえて、ご自身の責任でご判断ください。
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