所得税の計算のしくみ:累進課税と各種控除の順序
源泉徴収票や確定申告書を見ても、所得税の計算が分かりにくいと感じる人は少なくありません。日本の所得税は累進課税で、収入から複数の控除を順番に差し引いた金額に税率を掛け、さらに税額控除を引いて最終的な税額が決まります。順序を理解すると、年収の変化や控除の見直しが税額にどう影響するかが見えてきます。
全体の流れ
所得税の計算は大きく次の順序で進みます。
- 収入から必要経費や給与所得控除を差し引いて「所得」を算出
- 所得から所得控除を差し引いて「課税所得」を算出
- 課税所得に税率を掛けて「算出税額」を算出
- 算出税額から税額控除を差し引いて「年税額」を算出
- 年税額に復興特別所得税(2.1%)を加算
「収入」と「所得」と「課税所得」は別物で、それぞれの段階で何を引くかが決まっています。
段階1:収入から所得を出す
給与所得者の場合、給与収入から給与所得控除を差し引いた金額が給与所得です。給与所得控除は収入に応じて段階的に決まり、令和8年度税制改正により最低保障額が74万円に引き上げられました(令和8・9年分の特例。令和7年度改正の65万円からの引上げで、令和10年分以後の本則は69万円)。上限は195万円のままです。
例えば年収500万円なら給与所得控除は144万円、給与所得は356万円となります。フリーランス・個人事業主の場合は、収入から必要経費を引いた金額が事業所得です。
複数の収入源がある場合は、それぞれを所得区分(事業・不動産・配当・一時など)ごとに計算し、合算します(株式の譲渡益など、他の所得と合算しない分離課税の所得もあります)。
段階2:所得から課税所得を出す
所得から差し引けるのが所得控除で、16種類が定められています。
代表的なものとして、
- 基礎控除:令和8年度税制改正により本則62万円に引き上げ(合計所得金額2,350万円以下)。さらに令和8・9年分は合計所得金額に応じた特例的な上乗せがあり、中低所得層ほど手厚くなります(令和10年分以降は本則62万円ですが、合計所得金額132万円以下の方には上乗せが残ります)。
- 配偶者控除・配偶者特別控除:最大38万円
- 扶養控除:一般38万円、特定扶養親族(19-22歳)63万円
- 特定親族特別控除:19〜22歳の親族の所得に応じて最大63万円(令和7年分から新設)
- 社会保険料控除:支払額の全額
- 生命保険料控除:最大12万円
- 地震保険料控除:最大5万円
- 医療費控除:(支払った医療費−保険金などの補てん額)が年10万円を超える部分(総所得金額等200万円未満の方は所得の5%超・上限200万円)
- 小規模企業共済等掛金控除:iDeCo掛金の全額
これらを所得から差し引いた金額が課税所得です。所得控除は「税率を掛ける前」に引くため、税率の高い人ほど控除の効果が大きくなります。例えば税率20%の人にとって1万円の所得控除は2,000円分の所得税減になります。
段階3:税率を掛けて算出税額を出す
課税所得に超過累進税率を掛けます。最新の所得税率と速算控除額は次のとおりです。
| 課税所得 | 税率 | 速算控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
累進課税は「超えた部分にだけ高い税率がかかる」仕組みです。例えば課税所得400万円なら、195万円までは5%、195万〜330万円は10%、330万〜400万円は20%が適用されます。実際の計算では速算控除額を使うと簡便で、400万円×20%−42.75万円=37.25万円となります。
段階4:税額控除を引く
算出税額から直接差し引けるのが税額控除です。所得控除より控除の効果が直接的なのが特徴です。
代表的な税額控除として、
- 住宅ローン控除:年末残高の0.7%(一定要件あり)
- 配当控除:配当所得の10%(一定の場合5%)
- 寄附金特別控除:(対象寄附金−2,000円)×40%(認定NPO法人等の場合。政党等への寄附は30%・上限あり)
- 外国税額控除:海外で課された税の調整(控除の順序は他の税額控除と異なります)
例えば住宅ローン控除の控除可能額が20万円なら、所得税から最大20万円が引かれます(所得税で引ききれない分は住民税からも一部控除)。
段階5:復興特別所得税
東日本大震災の復興財源として、2026年分までは年税額に復興特別所得税2.1%を上乗せします。所得税額が10万円なら2,100円です。2027年分以後は、復興特別所得税1.1%+防衛特別所得税1%(合計2.1%)の構成に変わり、復興特別所得税の期間は2047年まで延長される予定です。
年末調整と確定申告
会社員の多くは年末調整により、所得控除(扶養・保険料など)や住宅ローン控除(2年目以降)を勤務先経由で精算します。年末調整で対応できない医療費控除・寄附金控除・住宅ローン控除の初年度などは、確定申告で精算します。
副業・複数収入・株式譲渡益・不動産所得などがある場合も確定申告が必要なケースがあります。年末調整で控除を申告し忘れた場合は、確定申告(または還付申告、5年以内)で取り戻せます。
具体例:年収500万円・単身者の場合
年収500万円の単身者・所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみと仮定すると、
- 給与収入:500万円
- 給与所得控除:144万円
- 給与所得:356万円
- 社会保険料控除:約75万円
- 基礎控除:62万円(本則)
- 課税所得:219万円
- 算出税額:219万円×10%-9.75万円=12.15万円
- 復興特別所得税込み:約12.40万円
※令和8・9年分は合計所得金額に応じた特例的な上乗せがあり、この例ではさらに税額が下がります。令和10年分以降は本則62万円です(合計所得金額132万円以下の方には上乗せが残ります)。正確な上乗せ額は合計所得金額の区分で変わるため、国税庁公式サイトでご確認ください。
ここに生命保険料控除(新契約は一般の枠で最大4万円)やiDeCo掛金などを加えると、課税所得がさらに下がります。所得税率10%帯にいる人にとって、1万円の所得控除は約1,000円の所得税減+約1,000円の住民税減で、合計約2,000円の効果です。
住民税との関係
住民税の計算も所得税と似た構造ですが、控除額が一部異なります(基礎控除43万円など)。税率は所得割10%でフラット、これに均等割(年5,000円程度)が加わります。住民税は前年所得に対する後払いで、6月から翌5月の12回で天引きされます。
制度変更の可能性
所得税の各種控除額・税率区分は、法改正で随時見直されます。令和7年度改正では、従来「103万円の壁」と呼ばれていた所得税の課税ラインが、給与収入ベースでおおむね160万円まで引き上げられました。
さらに令和8年度税制改正では、基礎控除の本則引上げに加え、低〜中所得層向けの特例加算と給与所得控除の最低保障額引上げにより、令和8・9年分の所得税について、給与収入のみの場合、178万円までは所得税が発生しない水準になりました。直近の制度内容は、国税庁公式サイトで確認してください。
【注意】「178万円の壁」まで所得税がかからなくなっても、2026年11月までの毎月の給与天引きには反映されません。この改正は令和8年(2026年)12月1日に施行され、令和8年分の所得税から適用されます。ただし、2026年11月までの源泉徴収事務に変更はなく、引上げの効果は2026年12月の年末調整でまとめて精算されます。新しい源泉徴収税額表が使われるのは、原則として2027年1月以後です。「壁が178万円に上がった=今すぐ毎月の手取りが増える」というわけではない点に注意してください。
計算の流れを理解すると、控除の効果を同じ枠組みで考えられるようになります。
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